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2010年4月20日 (火)

[ニュース] 鉄より強いプラスチックを開発 広島大グループ

これは誤解されそうなニュース (書いた記者が誤解してるかも) なので、 補足しておきます。 まずは、 ニュース記事。

47NEWS: 鉄より強いプラスチックを開発 広島大グループ

 鉄鋼の2~5倍の強度を持つプラスチックのシートを開発したと、広島大の彦坂正道特任教授(高分子物理学)らのグループが19日、発表した。

 厚さ10分の数ミリ。透明で成形しやすく、自動車の車体やガラスの代用品などとして応用が見込める。通常のプラスチックとほぼ同じ値段ででき、不純物がないためリサイクルしやすい利点もあり、新素材として普及を目指す。

 従来のポリプロピレンより、引っ張り強度が7倍以上の230メガパスカルに増していた。この強度は同じ重さの鉄鋼の2~5倍という。

見出しから、 「おっ、 いままで鉄より強いプラスチックは無かったんだな。 それがいきなり、 鉄より強いプラスチックが出来たんだ!」 と思ってしまうかもしれませんが、 それは二重に誤解しています。 また、 この新材料の価値は、 そこではありません。

鉄材料の引っ張り強度は、 200~500MPa (メガパスカル) くらい。 自動車のボディなどに使われる高張力鋼という特殊な鉄材料では、 600~1,000MPa にもなります。 今回のプラスチック (NOC) は 230MPa だというのですから、 いちばん軟らかい鉄材程度しかありません。 これが誤解の一つ目です。

それでは 「鉄より強い」 はウソかというと、 そうではありません。 記事本文にはちゃんと書いてありますが、 「強度は同じ重さの鉄鋼の2~5倍」 だというのです。 材料の重さを一緒にしたら (その分、 比重の軽いプラスチックは量が増えます)、 鉄より強いというのです。 NOC の比重は 1弱 (0.94 だそうです)、 鉄の比重は 8弱 (純鉄なら 7.86) ですから、 ちょっと計算してみましょう。

比重 1 あたりのひっぱり強度 (「比強度」 という)
NOC: 230 ÷ 0.94 = 240くらい
鉄: (200~1,000) ÷ 8 = (25 ~ 125) くらい
∴  比強度なら、 NOC は鉄の 2倍~10倍くらい
※ あ、 発表より上が大きくなっちゃいました。 構造用鋼板あたりから上の鉄材を対象に考えてるのかな。

誤解の二つ目は。 1,000MPa に達する高張力鋼は特殊 (「超高張力鋼」と呼ばれる) でして、 普通に自動車などで使われる範疇では 800MPa 程度です。 比強度に直すと 100 くらい。 ところが、 すでに量産されているプラスチックには、 比強度が 100 を越す物があるのです。 たとえば、 ポリベンゾイミダゾール (PBI) で、 引っ張り強度 160MPa、 比重 1.3、 したがって比強度 123、 といったものが既に量産されています。 ( 例 ⇒ ポリペンコPBI )
通常の鉄材料よりも比強度が高いプラスチックは既にあって、 NOC が初めてというわけではないのです。 とはいえ、 比強度で PBI の 2倍程度に引き上げたのですから、 やはりすごいことではあります。
※ ほんとに特殊な超高張力鋼の中には 2,000MPa なんてものもあります ( 例 ⇒ M-V型ロケットモータケース )。 これだと比強度 250 ですから、 NOC が負けています。

では、 この NOC の価値はどこにあるかというと。 記事に書いてありますね。 「透明で成形しやすく、自動車の車体やガラスの代用品などとして応用が見込める。通常のプラスチックとほぼ同じ値段ででき、不純物がないためリサイクルしや すい」 …安くて、 使いやすくて、 リサイクルもしやすい、 と。

20100420_01

広島大学の公式リリース 「鉄鋼のように強い汎用プラスチックの創製」 (平成22年4月19日) から、 以下に引用しておきます。

NOCの優れた特性は、鉄鋼の2から5倍、アルミニウムの6倍の比強度(重量当たりの引張破断強度)と、通常のプラスチックより50℃以上高い耐熱性、透過率99%の実現も可能な透明性、さらに廃材が高率で再生可能な高リサイクル率の可能性などさまざまな点があげられます。これに加え、成形性がよく錆ないなどのプラスチック本来の特性も備えています。また、NOCを折りたたんでも、力を外すと、再び元の形状に戻ります。この強靭さと弾力性の両立は、鉄鋼をはるかにしのぎます。

こうした数々の特性によって、既存の特殊な高分子材料(エンプラ)にとって代わることは十分に期待され(図11)、比強度の大きさから、鉄鋼やアルミニウムなどの金属材料に代替することで、製品の軽量化を図ることが期待されます。また、高剛性と高靱性を備え、錆ないことから、高層ビルや家屋などの建築材料にも適しており、耐水性も加味されるので、橋梁やダムなどの構造材としての利用も期待されます。

しかも透過率99%という高い透明性は、ガラスの代替材としても期待できます。

記事に書いてなかったこととして、 折りたたんでも割れたり永久変形しにくい、 という特性もあるとのことです。 自動車のボディに使えば、 ぶつかっても凹みが残らないことになります。 折りたためる液晶パネルも作れるかもしれませんね。

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コメント

 工具鋼には2000MPa以上で耐熱性500℃以上があるのに何を騒いでいるのか意味不明。

投稿: 量子力学 | 2013年4月25日 (木) 21時05分

工具鋼は引張り強さ2000MPa以上がごろごろあるぞ。

http://www.hitachi-metals.co.jp/product/steel/index.html

投稿: 玉鋼 | 2010年4月30日 (金) 12時42分

> テオ氏
鉄と同じ程度の強度では、 まだまだ~っ!
# 見てないから、まともに返せん orz

> C.John さん
そういや公式リリースに硬度が書いてないですねぇ。 意外と表面は傷つきやすいのかも。
「無数のナノ結晶が整然と並び、これをダイヤモンドと同等の強度を持つひも状分子がしっかりと連結している構造」なんて書いてあるから、 表面硬度もけっこうありそうな気はするんですが…

投稿: biac | 2010年4月21日 (水) 00時14分

ガラスの代替を狙うなら後は「傷つきにくさ」ですかね。
自動車ならリアガラスとか?

投稿: C.John | 2010年4月20日 (火) 23時47分

とりあえずスタートレック映画第4作でスコットが作ったプラスチックが出来た訳ですな(違

投稿: テオ | 2010年4月20日 (火) 18時57分

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