日本電子出版協会 (JEPA) が、 EPUB 日本語要求仕様案を 4月 1日付けで公開しました。 EPUB ( ePub とも表記 ) は、 すでに広く使われているフォーマットのひとつなので、 この仕様に沿ったハードウェア・ソフトウェアが早い時期に登場することが期待されます。
※ JEPA は、 先月ようやく立ち上がった日本電子書籍出版社協会 ( EBPAJ ) とは違う組織です。
2010/04/01 日本電子出版協会、EPUB日本語要求仕様案を策定
Adobe、Google、Apple、SONY、Barnes and Noble などが採用し、電子書籍データ・フォーマットの実質的な世界標準となりつつある、 EPUB について、 日本語要求仕様案を策定し、 本日、 一般に公開した。
JEPA は昨年11月、 協会内に EPUB 研究会を組織し、 仕様を策定した米国の電子書籍標準化団体 IDPF (International Digital Publishing Forum) に加盟、 欧米の策定チームと仕様の調整を行ってきた。 要求仕様案には、 縦書き、 ルビ、 禁則処理などが含まれており、 テキスト系の書籍について、 一定の日本語組版を実現させている。
世界の電子書籍のフォーマットは、 現在のところ Amazon 対 EPUB 連合という様相を呈しています。 ( 日本のマイナーな独自フォーマットなぞ、 歯牙にも掛かりません。 )
- Amazon 陣営
現行 Kindle の独自フォーマット AZW ( 将来は Open Book Alliance のオープン規格へ? )。 現在 40万冊以上を提供しているとされている。
- EPUB 陣営
Google/Sony, Apple (iBooks) … つまり、 Sony の電子ブックリーダーや Apple の iPad など。
Google Books で 100万冊以上が提供されていると言われている。
※ 参考:
TechCrunch: Sony と Google がオープン電子ブックで Kindle に対抗 ( 2009/8/27 )
日経トレンディネット: 「活字のKindle」vs「マンガのiPad」――電子書籍端末の勝者は? ( 2010/2/2 )
日経 PC online: 立ち上がる国内電
子書籍市場 ( 2010/4/5)
今でも、 EPUB フォーマットならば、 日本語の文章も iPad などでそのまま表示できます。 ただし横書きに表示されてしまいますし、 ルビや割注などは、 もしEPUB 日本語要求仕様に沿ったフォーマットであったとしても、 表示されません。
しかし、 EPUB 日本語要求仕様に沿ったデータと、 例えば iPad 用表示ソフトがあればどうでしょう?
実際、 青空文庫のデータを EPUB へ変換するソフトウェアは、すでに存在します。 iPad で縦書き表示を実現するソフトの開発も進んでいます。 EPUB 日本語要求仕様のデータを縦書き表示するためのハードルは、 それほど高くないといえるでしょう。
※ 参考:
日経 PC online: 青空文庫、自費出版・同人誌向けに日本語組版用タグなど公開 ( 2010/4/6 )
builder by ZDNet Japan: iPadビジネスを先取り!EPUB関連フリーソフト5選 ( 2010/2/18, 青空文庫のデータを EPUB に変換するソフト Text2ePub に言及 )
builder by ZDNet Japan: unakami: iBooksが待ちきれず「EPUB」を自作する ( 2010/1/29, 日本語の EPUB データを iPhone で表示する実験 )
nagisaworks.: 祝iPad発売!(in US…) ( 2010/4/4, i文庫の開発者のブログ )
asahi.com: グーグル電子書籍、日本でも秋ごろ販売へ ( 2010/2/24 )
Google/Sony と Apple がどれだけ後押しをしてくれるかどうかで変わってくるとは思いますが、 Google や青空文庫が持っている日本語コンテンツが、 この EPUB 日本語要求仕様で提供されれば、 iPad などで大量に消費されるようになるでしょう。 この秋と言われる、 グーグル電子書籍の上陸も控えています ( 上記ニュース参照 )。 そうなると、 Sony の電子ブックリーダーも日本上陸を果たすでしょう。 現在 EPUB 対応になっている Sony のリーダーが、 EPUB 日本語要求仕様に対応してくる可能性は高いと思います。 また、 オープンフォーマットですから、 PC 用のリーダーソフトが出てくるのも時間の問題でしょう。
Amazon が日本対応に手間取ったりすると、 日本では EPUB 一色になってしまうかも知れませんね。
※ 余談ですが、 デジタル録音図書の国際標準規格である DAISY 再生システムをEPUB にも対応させるプランが進行しています。 ( カレントアウェアネス・ポータル: 「デイジーの活用による情報アクセスの保障と促進」<報告>, 2010/3/10 )
※ さらにさらに余談ですが、 MS Word から DAISY を書き出すためのアドインの提供が始まりました。 ( DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会、マイクロソフト 電子書籍のバリアフリー化に向けた取り組みで協力, 2010/4/6 )
( 2010/4/7 追記 )
上では大きな動きの部分だけを書き飛ばしたので、 いろいろと詳細な話が抜けています。 やっぱり気になるので、 補足。
・ 「要求仕様」 であって 「仕様」 ではない
EPUB 日本語要求仕様案を見れば分かることですが、 「こういう仕様を決めないといけないよね」 という要求事項だけが書かれています (しかも、 まだ 「案」 (draft) です)。 つまり、 これだけでは、 まだ日本語表示用のソフトウェアを作れないということです。
・ W3C の要求を参照している
EPUB 日本語要求仕様案は、 W3C の 「日本語組版処理の要件」 ( Requirements for Japanese Text Layout ) を主に参照しています。 サブセットと言ってしまってもいいかもしれません。 そして、 日本語組版処理の要件を満たす仕様は、 ある程度 CSS3 に盛り込まれるようです。 EPUB 日本語要求仕様案を満たす 「EPUB 日本語組版拡張仕様」 の姿は見えていると言ってもよいでしょう。
・ まだ不完全な要求仕様である
EPUB 日本語要求仕様案の冒頭に、 雑誌やパンフレットを除いたいわゆる電子書籍のためのものである、 と断わってありますが、 電子書籍に限っても不足している部分があります ( 最初の working draft としては、 いわば当然のことではありますし、 そもそも "Minimal Requirements" という表題です )。 たとえば、 外字の扱いがまだ入っていません。 ( ⇒ XMLと文字メーリングリスト: 「[XML MOJI 01824] 電子書籍フォーマットEPUBにおける外字への要求事項」 2010/03/27 from @muratamakoto )
・ 公式には IDPF の EPUB 仕様に組み込む
EPUB 日本語要求仕様案に基づく 「日本語組版拡張仕様」 は、 将来の EPUB 仕様に組み込むことになります。 じつは、 次期 EPUB へのコメント募集が 4/6 から始まっています ( その EPUB 2.1 Working Group Charter の課題の 2つめで、 EPUB 日本語要求仕様案が参照されています )。 @muratamakoto は 「まとめて普通にやれば2015年でしょね。」 と述べています。
・ デファクトスタンダードはきっと早い
じゃぁ、 実際にモノが出てくるまで 5年以上も掛かるのか? そうはならないと思います。 日本で電子書籍を売るには縦書きは必須でしょうから、 「EPUB 日本語要求仕様準拠」 という形での製品化がきっと先行するでしょう。 EPUB 2.1 が公式に策定される前に、 デファクトスタンダードが確立するのではないかと思います。
・ IDPF には Adobe も入っている
Adobe は、 すでに日本語組版技術を持っています。 それが EPUB 2.1 に入る可能性はゼロじゃないと思います。 コンテンツ提供者とユーザーにとっては、 はっきり言えばどちらでもかまわないでしょう。 オープンな仕様と、 それに対応したハードウェアの普及こそが大事です。 ( 日本国内のハードウェアでしか使えない 「ガラパゴス」 フォーマットでは、 海外にコンテンツを売ることはできません。 )
・ フォーマット変換はコストが掛かる
フォーマットが異なっていても変換プログラムを使ってコンバートするだけだからコストは掛からない、 という意見があるようです。 たしかに、 変換処理そのものはたいしたコストは掛かりません。 しかしそれは、 コンバート後に、 正しく変換できているか確認する ( 電子書籍の内容を全部読む ) 必要があることを忘れた議論です。 個人の責任で変換するのならばともかく、 商品として売るものの中身を確認しないなどということが考えられるでしょうか。
・ EPUB 日本語要求仕様以外に日本が力を入れるべきこと
EPUB 日本語要求仕様案は、 雑誌やパンフレットといったレイアウト重視の出版物には対応していません。 しかしそれは欧米でも同じ課題を抱えているわけです。 それよりも、 日本がリーダーシップを取って推進すべきは、 コミックでしょう。