「ソフトウエアは工業製品なのだろうか、それともアートなのだろうか。」
タイトルは、 Software Creativity 2.0 ( 邦題 「ソフトウエア・クリエイティビティ ソフトウエア開発に創造性はなぜ必要か」 ) に、 平鍋健児氏が付けられた解説の一節です。
氏の blog 「An Agile Way」 から引用。
An Agile Way: ソフトウェア・クリエイティビティ 2.0
2009/07/05
ソフトウエア開発を職業としている人たちにとって、 仕事の中に「アート」に属する部分があることは否定できないが、 全体をアートだと言ってしまうとまったく前進が望めないように思える。
自分たちの活動を 「工業製品」 と言われた瞬間にそれは発想の自由のないアクティビティに見え、 自分の人生を費やす意味をなくしてしまう……
平鍋氏にそんなつもりは毛頭ないのでしょうが、 これでは、 『工業製品を作り出している人々の仕事には 「アート」 に属する部分など無く、 すべて発想の自由の無いアクティビティだけである』 と言っているように聞こえてしまいます。
現実は、 大量生産しているラインの仕事であってもアートはあるかもしれないのですよ? 私には、 量産ラインで働いた経験がたったの 3ヶ月しかないので、 ほんとうにそうなのかどうか言えませんけれど。
しかし、 工業製品の開発に携わってきた私には、 少なくとも工業製品の開発という仕事の中にはアートの部分があると断言できます。 機械部品ひとつの設計を取り上げてみても、 要求されるスペック (ソフト開発で言う外部設計) を満たすカタチは何通りもあるのが普通です。 そのなかからどれを選択するか。 そしてそれを、 ( 今では少なくなっていると思いますが ) 2次元の設計図として表現する際には、 いかに見やすく誤解されないように線を描くか。 その本質は、 プログラムをコーディングするときと同じです。
具体的な例を挙げましょう。
1990年に開催された World Solar Challenge に出場した HONDA Dream、 このクルマに対して 「発想の自由がまったく無い」 とか 「アートに属する部分なぞ見当たらない」 とか評価する人が、 どれだけいるでしょう? 私は、 チームメンバーとしてこのドリームの足回り設計を担当し、 オーストラリアまで行きました。
ドリームはワンオフのレースカーで、 工業製品としての量産車とは違うと言われるかもしれません。 たしかに、 開発プロセスは違いました。 量産車 ( 私はこっちの経験のほうが長かったです ) の開発に比べると、 自由に決められる部分は多く、 図面は内輪だけで理解できれば良いのでかなりラフ、 実施するテストは最小限… といった具合です。 しかし、 それは程度の差であって、 本質的な違いがあるとは感じられませんでした。
こういう話を聞くたびに、 日本のソフトウェア業界はもっと製造業から正しく学んで欲しいなぁと思うことしきりなのです。
※ ちなみに、 リンク先の World Solar Challenge の記事に出てくる IRC というのは、 主に二輪用のタイヤを作っているメーカーです。 1990年 のドリームは、 自転車用のタイヤを履いていたんですよ。
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