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2008年6月 4日 (水)

日本版フェアユースに期待

※ フェアユースについては、 例えば Wikipedia の記事を参照。

米国流のフェアユースが認められると…
・オークションの出品者が、 商品の画像を掲載する ( 複製権 )
・障害者向けに、 映像に字幕や手話を付ける ( 翻案権、 同一性保持権 )
・ニコ動に、 動画をアップロードする ( 複製権、 同一性保持権 )
・放映された作品の感想に、 画像を添付して公開する ( 複製権 )
・作品の要約が含まれている感想文を、 blog に載せる ( 翻案権 )
…といったようなことが、 合法と認められる可能性が出てきます。
# 合法になる、 ではありません。 現状では、カッコ内の権利侵害になっていて、 権利者が黙認するのをやめて裁判を起こされたら、 「侵害の事実は無かった」 という ( 非常に分の悪い ) 抗弁しかやりようがありません。 フェアユースでは、 上記の行為は合法であると抗弁できて、 それが認められる可能性がある、 ということです。

 

さて。 「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」 の第3回の会合が、 5月 29日に開催されました。

それに先立って asahi.com が 5月 27日の記事で、 次のように報道しました。

著作物利用拡大へ法改正 ネット配信向け政府方針
2008年05月27日03時03分

政府の知的財産戦略本部 (本部長・福田首相) は著作権法を改正し、 他人の著作物を利用しやすくするために新規定の創設を検討する方針を固めた。 グーグルに対抗した次世代のネット検索エンジンの開発など、 ベンチャー企業が新規事業を起こしやすくするのが狙いだ。

具体的には米国の著作権法にある 「批評、 解説、 報道、 研究などを目的とする、 著作物のフェアユース (公正な利用) は著作権の侵害とならない」 という規定の日本版創設を検討する。 米国ではこの規定によって、 ネット検索エンジンの開発などがしやすくなったとされる。

( 中略 )

同本部は6月、 「知的財産推進計画2008」に検討の方針を盛り込み、 知財制度専門調査会 (中山信弘会長) などでの審議を経て、 09年以降の著作権法改正をめざす。

中略の部分に、 かなりの量を割いてフェアユースの解説がされていることもあって、 日本版フェアユース規定を盛り込むことが 「09年以降の著作権法改正」 の主な目的であるように受け取れてしまいます。

ところが。 実際に第3回の会合が開かれた翌日には、 たとえば INTERNET Watch は、 次のように伝えています。

「検索サービスの適法化」 などを知財推進計画に提言、 知財制度専門調査会

( 前略 )
特に早急に対応すべき課題としては、 「検索サービスの適法化」 「キャッシュなど通信過程における一時的蓄積の法的位置付けの明確化」 「研究開発に関わる著作物利用の適法化」 「リバースエンジニアリングの適法化」 の4点を挙げ、 この4点については知的財産戦略本部で6月に決定する 「知的財産推進計画 2008」 に反映し、 2008年度中に必要な法的措置を講じることが必要だとしている。

専門調査会ではさらに今後の検討課題として、 インターネットを活用した新しいビジネスにおけるコンテンツの二次利用を進めるための流通促進方策や、 「日本版フェアユース規定」 の導入、 ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化について検討を進め、 2008年度中に全体の報告をまとめるとしている。

…あら?
『「日本版フェアユース規定」 の導入 ( 中略 ) について検討を進め』 るのですか。
その言い方は、 導入するか・しないか も含めて検討するということですね。

むしろメインは、 日本が Web でのビジネスで遅れを取っている原因だと言われている、 「検索サービス」 ・ 「通信過程におけるキャッシュ」 ・ 「研究開発における著作物利用」 ・ 「リバースエンジニアリングの適法化」 の4点になっています。
そして、 それらについては 「2008年度中に必要な法的措置を講じる」、 と。

この 4点をクリアするためには、 必ずしも 「日本版フェアユース規定」 は必要じゃありません。 現行の著作権法にある権利の制限規定 ( 私的複製の例外など ) に、 さらに 4点を追加して列挙すれば済んでしまいます。

asahi.com の記事から私が受け取ったニュアンスとは、 だいぶ違います。


ということで、 第3回の会合の資料を探してみました。
めずらしく、 議事次第と、 当日の資料がすでに公開されていました。

資料を見ると、 INTERNET Watch が伝えるように、 4項目については 『イノベーション創出に関連する以下のものについては、 「知的財産推進計画2008」 に反映し、 2008年度中に必要な法的措置を講ずることにより、 早急に課題解決に取り組むべきことが必要である。』 と、 今年度中に何らかの法的措置をとるべきであると結論付けています。

そして、 それ以外の課題については…

デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について
<検討経過報告>
平成20年5月29日
デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会

( 中略 )

5. 今後の検討課題
( 前略 ) 掲げた課題のうち、 デジタル・ネット環境を活用した新規ビジネスの創出の観点から ( 中略 ) 下記の課題を中心として検討を深めることとする
( 中略 )

(1) コンテンツの流通促進方策について
インターネットを活用した新しいビジネスにおけるコンテンツの二次利用を円滑に進める観点から、 コンテンツの流通を一層促進する新たな枠組みについて、 権利者の利益確保に留意しつつ、 総合的な検討を行うとともに、 一般人によるネット上での新しい創作形態への対応方策について検討する。

(2) 包括的な権利制限規定(日本版フェアユース規定)の導入について
将来の多様な発展を後押しし、 新たなビジネスモデルの開発や新規事業の参入を促す観点から、 個別具体の権利制限規定との役割分担を明確にしつつ、 著作権者等の利益を不当に害しないと認められる利用を包括的に合法化し得る一般的な権利制限規定 (日本版フェアユース規定) を導入することについて検討する

(3) ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化
( 後略 )

「日本版フェアユース規定を導入することについて」 これから検討するんだ、 と言っています。 やはり、 導入するという方向に決まった、 というわけじゃなさそうです。

もうひとつ気になるのは、 「新規ビジネスの創出」 ・ 「新しいビジネス」 ・ 「新たなビジネスモデル」 等々を連発しているところ。
既得権者にとっては利益損失になる ( と思われているであろう ) フェアユースを検討していくに当たって、 ビジネス的にも儲かるようになる話なんですよ、 と説得するための伏線ならいいんですが。
どうにも、 ビジネス用途だけを考えて、 一般ユーザーのことはすっぽ抜けるんじゃないだろうか、 という疑念が拭えません。

ですが、 それでも。
国の側から 「日本版フェアユース規定」 という言葉が出てきただけでも、 大きな進歩でしょう。 今後の動きを、 期待して見守っていきたいと思います。

→ 関連: いいかげん、 フェアユースを認めたら? ( 2007年10月15日 )

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