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2010年5月13日 (木)

2010都条例問題: 「非実在青少年」とは何か?

● はじめに ●

「非実在青少年」なるものを規制しようという東京都条例案が問題になっています。 表現規制、 すなわち基本的人権の制限に関わる問題なのですが、 ほとんどマスコミが報じないため、 あまり知られていません。 さらに問題なのは、 そのマスコミが条例の改正案を読まずに記事を書いているとしか思えないこと。 それをいいことに、 都の側は ( しぶしぶ改正案を Web で公開したものの ) 反対論は 「誤解」 であると、 根拠となる条文を示さずに言い張っています ( 東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集 )。

この問題を正しく捉えるには、 自分自身で条例案を読み解いてみるしかありません。

私は法律の専門家ではありません。 しかしながら、 コンピューターのプログラムを作る仕事をしていますので、 論理的な文章を読み書きすることについては経験を積んできています。 そのような眼から、 条例案の構造と意味を解説してみます。 文章をきちんと論理的に読むということは、 時間と根気のいる作業ですが、 けっして難しいものではありません。 みなさんもぜひ挑戦してみてください。

本稿では、 現行の条文七条・八条、 そして条例案の七条を読んでみます。

目次

  1. 東京都の青少年条例改正案
  2. 現在の七条 (自主規制)
  3. 現在の八条 (指定図書)
  4. 新七条(案) (非実在青少年についての自主規制)
    1. 非実在青少年の定義
    2. 非実在青少年が居る所
    3. 非実在青少年の何が自主規制の対象になるのか
    4. 「性交類似行為」
    5. 「視覚により認識することができる方法」
    6. 「みだりに」
    7. 「性的対象として」
    8. 「肯定的に」
    9. 「性的感情を刺激し」
  5. まとめ: 新しく自主規制の対象となる非実在青少年とは

2010.05.30 初版公開

東京都の青少年条例改正案

非実在青少年」 とは、 2月 24日に都議会へ提出された、 東京都青少年の健全な育成に関する条例 (通称、青少年条例) の改正案の第七条で定義されている言葉です。 この改正案にはいくつも問題がありますが、 その中で表現規制につながる部分に関しては、 この 「非実在青少年」 というものを正しく理解することが肝心です。

理解すると言っても、 それは改正案をきちんと読むこと、 それ以外にはありません。 改正案が問題視されるようになって、 都から説明がされるようになっては来ましたが、 それには何ら法的拘束力はありません。 裁判になってみれば分かることですが、 法令に書かれていないことに基づいて判決が下されることはありえないのです。 条例案と誰かの説明が喰い違っているときは、 条例案そのものに依らねばなりません。

現在の七条 (自主規制)

まずは肩慣らし。 「非実在青少年」 の話に行く前に、 現行の条例 (平成十九年七月一日施行) を見ておく必要があります。 現在でもすでに、 かなり曖昧だからです。   (引用の際、 適宜空白や改行を入れあるいは強調し、 また、 括弧内の文字列は薄くするなどして、 読みやすくしてあります。 以下同じ。)

(図書類等の販売等 及び 興行の自主規制)
第七条 図書類の発行、 販売 又は 貸付けを業とする者 並びに 映画等を主催する者 及び 興行場 (興行場法 (昭和二十三年法律第百三十七号) 第一条の興行場をいう。 以下同じ。) を経営する者は、
図書類 又は 映画等の内容が、 青少年に対し、 性的感情を刺激し、 残虐性を助長し、 又は 自殺若しくは犯罪を誘発し、 青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、
相互に協力し、 緊密な連絡の下に、 当該図書類 又は 映画等を青少年に販売し、 頒布し、 若しくは貸し付け、 又は 観覧させないように努めなければならない。

法律の文章というのは、 厳密に書こうとするあまり、 やたらと長ったらしくなります。 読むときのコツは、 文章の構造を把握することと、 理解できた文はどんどん自分の言葉で置き換えて短くしていくこと、 それと、 対象が複数にわたって書かれているときは個別に切り出してみることです。

この 7条は 1文で出来ています。
文の構造を見ると、

  …する者は、     ( ← 誰が )
  …ときは、      ( ← こういう時には )
  …なければならない。 ( ← こうすべし! )

というカタチになっています。

最初の 「誰が」 の部分の構造は、 こうなっています。

  (
    図書類の発行、
     OR
    販売
     又は
    貸付け
  ) を業とする者
   並びに
  映画等を主催する者
   及び
  興行場を経営する者

適宜カッコや OR を補いましたが、 この部分は 「~する者」 が 3つ並んだ構造になっていることに気付けば理解できると思います。 ようは、「出版社・本屋・貸本屋、映画館、ゲームセンター」 ということですね。 なお、 「図書類の発行を業とする者」 (出版社) が含まれていることに注意しておいてください。

次、 「どういう時に」 の部分です。 ここは "OR" がいっぱいあって、 そのつがなりを理解するのが難しいです。 そういうときには、 まず、 「最後に OR が付く」 という原則を使います。 たとえば 3つの同格のもの A と B と C を OR で併置するときは、 「A、 B、 または C」 と、 最後の C の前に OR が付きます。 また、 「OR で結ばれたものは交換できる」 という原則も当て嵌めてみます。 さきほどの 3つは 「A、 C、 または B」 などと順番を入れ替えても、 意味は変わらないはずです。

「性的感情を刺激し、 残虐性を助長し、 又は 自殺 若しくは 犯罪を誘発し、」 の部分に、 「又は」 と 「若しくは」 の 2つの OR が入っています。 ここは、 「~し、」 が繰り返されていることに気付けば、 「~し、 ~し、 又は ~し、」 という構造になっていることが分かるでしょう。 3つのことが併置されて、 最後のことの前に OR が付いている構造です。 そうすると 「若しくは」 のほうは、 最後の 「~誘発し」 の中だけで使われていることになります。

    性的感情を刺激し、
     OR
    残虐性を助長し、
     又は
    (自殺 若しくは 犯罪) を誘発し、

では、 これら 3つの 「~し、」 と、 直後にある 「青少年の健全な成長を阻害する…」 の関係はどうでしょう? まず、 直前に OR は付いていません。 そして、 「青少年の健全な成長を阻害する…」 を、 たとえば 「性的感情を刺激し」 と入れ替えてみると、 「青少年の健全な成長を阻害し、 残虐性を助長し、 又は   自殺若しくは犯罪を誘発し、   性的感情を刺激するおそれがあると認めるときは、」 となって、 どうにも収まりが悪くなります。   先ほど述べた原則に照らし合わせると、   同格のものが並べてあるのではない、 ということになります。   ということは、 「青少年の健全な成長を阻害する」 の手前で列挙は終わっていると解釈すべきだということになります。 つまり、 こうなります。

  (図書類 又は 映画等) の内容が、
  青少年に対し、
  (
    性的感情を刺激し、
     OR
    残虐性を助長し、
     又は
    (自殺 若しくは 犯罪) を誘発し、
  )
  [それによって]
  青少年の健全な成長を阻害するおそれがある
  と
  [出版社・本屋・貸本屋、映画館、ゲームセンターが]
  認めるときは、

足りない部分を角カッコで補いました。 まだ分かりにくいと思うので、 具体的に一部分だけを抜き出してみましょう。 たとえばエッチな本を出している出版社の場合。

  図書の内容が、
  青少年に対し、 性的感情を刺激し、
  青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると
  [出版社が] 認めるときは、

同じようにして、 映画館で残酷な殺人シーンのある映画を上映するときや、 ゲームセンターで人に向かって発砲するゲームを置いているときを考えてみてください。

この条件の部分は、 ひどく曖昧ですね。 これであなたは具体的な判断が出来るでしょうか? 「青少年に対し、 性的感情を刺激」 するとはどういうことか、   まずもってそこからして曖昧です。 そして、 「青少年に対し、 性的感情を刺激」 するものであっても、 売るほうが 「青少年の健全な成長を阻害するおそれ」 は無いと判断するのなら、 (理屈の上では) 条件にあてはまらないのです。 しかし、 それに対して都が   「青少年の健全な成長を阻害するおそれ」 があると判断してしまい、 有害図書指定を喰らったのではたまりませんから、 販売する側はそのおそれがあろうと無かろうと、   「自主規制」 せざるをえなくなります。

このように現在の条例でも、 第七条に示されている自主規制の基準は、 じつはよく分からないものなのです。

最後、 「こうすべし!」 の部分。 これは条件の部分に比べれば簡単でしょう。 いきなり書き下しておきます。

  [出版社・本屋・貸本屋、映画館、ゲームセンターは]
  相互に協力し、
  緊密な連絡の下に、
  当該 [の] (図書類 又は 映画等) を 青少年に
  (
    (
      販売し、
       OR
      頒布し、
       若しくは
      貸し付け、
    )
     又は
    観覧させ
  )
  ないように
  努めなければならない。

ようは、 さきほどの条件に当てはまるものを、 青少年の目に触れることがないようにしろ、 ということですね。

ところで、 さきほどから出てきている 「青少年」 とは?
これは第二条に定義が書いてあります。

(定義)
第二条 この条例において、 次の各号に掲げる用語の意義は、 それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 青少年  十八歳未満の者をいう。

法律で 「者」 というのは、 生きている人間のことです。 死んでいる人間や人間でないものは含みません。 そして、 都条例の及ぶ範囲は都内です。 第二条の定義には 「都内に居住する」 といった限定が書いてありませんから、 「青少年」 とは、   (条例の対象となる行為をしている瞬間に) 都内に存在する 18歳未満の生きている人間、   ということになります。

この青少年の定義には、 抜け穴があります。 都内に住んでいる 18歳未満の人が、 隣県に出かけていって、 そこで該当の図書を読んだり映画を見たりするのは、 この条例では取り締まれないわけです。 隣県の本屋が売ったとしても、 都条例の効力は及ばないので、 その本屋を罰することもできません。 しかし。 出版社はどうでしょう? 都内の出版社にも、 該当の図書を都内で青少年に販売・頒布(=配布)・貸与しないようにする努力義務が課せられています。   出版した本が、 どこをどう巡って都内で青少年の手に渡る可能性があるかどうかなんて、 出版社にコントロールできませんよね。 ということは…?

現在の八条 (指定図書)

お疲れさまでした。 七条を読むことができれば、 現行の八条は楽勝です。

(不健全な図書類等の指定)
第八条 知事は、 次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され、 若しくは 頒布され、 又は 閲覧 若しくは 観覧に供されている図書類 又は 映画等で、
その内容が、 青少年に対し、 著しく性的感情を刺激し、 甚だしく残虐性を助長し、 又は 著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、 東京都規則で定める基準に該当し、 青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

八条の対象になるものは、 さきほどの七条とほぼ同じですね。 まったく同じ文言に下線を引きましたので、 見比べてみてください。 ただし、 あの曖昧な条件の部分に、 「著しく」 といった修飾が付けられています。 そうはいっても曖昧なことには変わりないのですが、 「東京都規則で定める基準」 (施行規則) に基づいて判断するよ、 ということになっていますので、 一応は曖昧さを減らしている形になっています。

施行規則が同時に定められて、 次の条例改正まで変更されない、 というなら (つまり、 条例と一体のものなら)、 まだ良いのですが、 実際には、 条例が決まった後に都の権限だけで規則は定められてきました。
※ 現行条例 改正 2007/3/16、 施行規則 改訂 2007/3/30, 2008/4/1, 2008/9/4

この八条で定義されている 「指定図書」 は、 次の九条で青少年への販売等が禁止されているわけですが、 その中で九条の一の4項 を見ておきましょう。

(指定図書類の販売等の制限)
第九条 (…中略…)
4 何人も、 青少年に指定図書類を閲覧させ、 又は 観覧させないように努めなければならない。

ここでは 「何人 (なんぴと) も」 青少年に指定図書を見せてはいけない、 という努力義務が書かれています。 法律で 「何人も」 というのは、 生きている人間と、 法人などを合わせて含む言葉です。 ということは、 都内に本社や拠点を持つ出版社も含まれていますし、 通販業者、 つまり Amazon なども対象に入っているわけです。 都内の青少年に直接販売しないことは可能でしょうが、 いったん流通に乗せてしまった指定図書が都内で青少年の目に触れる可能性を制御できない以上は…? そうです。 慎重にするならば、 出荷停止せざるをえません。 (実際に Amazon は、 不健全図書の指定を受けた本の販売を停止しています。) それと、 お分かりでしょうが、 指定図書を入手した成人にもこの努力規定は掛かります。

なお、 九条の二 (表示図書) は、 これがいわゆる 「成人マーク」 の規定ですが、 解説は割愛します。

新七条(案) (非実在青少年についての自主規制)

お待たせしました。 ようやく、 非実在青少年です。

まず新七条(案)を載せます。 現行と同じ部分は灰色にしてあります。

(図書類等の販売等及び興行の自主規制)
第七条 図書類の発行、 販売 又は 貸付けを業とする者 並びに 映画等を主催する者 及び 興行場 (興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。) を経営する者は、
図書類 又は 映画等の内容が、
次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、
相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類 又は 映画等を青少年に販売し、 頒布し、 若しくは 貸し付け、 又は 観覧させないように努めなければならない。

一 青少年に対し、 性的感情を刺激し、 残虐性を助長し、 又は 自殺若しくは犯罪を誘発し、 青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

二 年齢 又は 服装、 所持品、 学年、 背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示 又は 音声による描写から
十八歳未満として表現されていると認識されるもの
(以下 「非実在青少年」 という。)
を相手方とする 又は 非実在青少年による
性交 又は 性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を
視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、
青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、 青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

現七条の 「青少年に対し、 性的感情を刺激し … 阻害するおそれがあるもの」 の部分が 「次の各号のいずれかに該当する」 に置き換えられています。 その下の 一 または 二 のどちらか (あるいは、 両方) に該当する場合は、 七条の対象 (つまり、 自主規制) になるわけです。 その一号は、 下線を引いた部分が現七条と同じです。   つまり、 二号が無ければ現行とまったく同じ内容になります。

非実在青少年の定義

新七条(案)の二号が、 問題の非実在青少年が出てくるところです。 非実在青少年の定義部分はそれほど難しい構造をしていません。 列挙の最後に OR が付く、 というルールだけで構造を把握できます。

(
  (
    年齢
     又は
    (服装、 所持品、 学年、 背景 その他)の 人の年齢を想起させる事項
  )の表示
   又は
  音声による描写
)
から十八歳未満として表現されていると認識されるもの
(以下 「非実在青少年」 という。)


「服装、 … その他」 という部分は、 その直後の 「人の年齢を想起させる事項」 がどのようなものであるかを例示しています。 分かりやすくするために、 この例示部分を削ってみましょう。

(
  (
    年齢
     又は
    人の年齢を想起させる事項
  )の表示
   又は
  音声による描写
)
から十八歳未満として表現されていると認識されるもの
(以下 「非実在青少年」 という。)


数式風に直せば、

  非実在青少年 =
  ((年齢 or 年齢を想起させる事項)の表示 or 音声による描写) から
  十八歳未満として表現されていると認識されるもの

あるいは、 くどくなりますが、 3つに分解しておきましょうか。

  非実在青少年 =
  (
    年齢の表示 から 十八歳未満として表現されていると認識されるもの
     or
    年齢を想起させる事項の表示 から
        十八歳未満として表現されていると認識されるもの
     or
    音声による描写 から 十八歳未満として表現されていると認識されるもの
  )

この定義に出てくる 「もの」 は、 ひらがなで書いてあります。 生きている人間を示す 「者」 ではありません。 だからこそ 「非実在」 と言っているわけですね。

非実在青少年が居る所

では、 どこに非実在青少年が存在するかというと、 この定義は第七条の中にあることから、 「図書類 又は 映画等の内容」 に存在することになります。 なお、  第七条の対象となる者に興行場の経営者が含まれていることから、 「映画等」 にはテレビゲームも含まれます。 また、 生きている人間を含まないとは書いてありませんから、 映画や写真集などでの実写も含むことになります。 (ただし、 それが実際の青少年であれば児童ポルノになってしまいますので、 事実上は 18歳以上の人に限られることになります。)

  非実在青少年の居場所 =
    図書類 (本、 雑誌、 コミック、 写真集など)、
    映画等 (映画、 アニメ、 テレビゲームなど)


コスプレしている成人や、 フィギュアなどといった三次元のものを除外する規定は書いてありませんから、 それらも非実在青少年です。 ただし、 第七条の中での使われ方は、 図書類・映画等に出てくる場合だけ、 ということです。 コスプレやフィギュアも、 写真や動画として図書類・映画等に登場すれば、 規制対象になります。

非実在青少年の何が自主規制の対象になるのか

さて、 第七条は自主規制の条文です。 非実在青少年がどのような自主規制の対象になるのでしょうか? 二号の続きを解読していきましょう。

まず、 新七条(案)の二号の冒頭の非実在青少年を定義している部分を、 「非実在青少年」 という言葉に置き換えてみましょう。

(
  非実在青少年を相手方とする
   又は
  非実在青少年による
)
(性交 又は 性交類似行為) に係る非実在青少年の姿態を
視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、
青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、
[それによって]
青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの


まだ長すぎて、 よくわかりませんね。

とりあえず細かいことはほっておいて、 あとから考えることにしましょうか。 「非実在青少年を相手方とする 又は 非実在青少年による」 は、 直後の 「性交 又は 性交類似行為」 を修飾しているだけですので、 削っちゃいます。 「視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に」 も削ってしまいましょう。 「性に関する」 も取っちゃいましょうか。

(性交 又は 性交類似行為) に係る非実在青少年の姿態を描写することにより、
青少年の健全な判断能力の形成を阻害し、
[それによって]
健全な成長を阻害するおそれがあるもの


現行七条と同じで、 「青少年の性に関する健全な … おそれがあるもの」 の部分は、 理屈の上では売る側の判断ですが、 実態としては都の判断次第ですから、 ほとんど無意味です。 そこで、 これも取っ払ってしまいましょう。 するとけっきょく、 自主規制の対象に追加されるのは大雑把に言うと、

(性交 又は 性交類似行為) に係る非実在青少年の姿態を描写すること

であるということになります。

「性交類似行為」

ところで、 「性交類似行為」 とは何でしょう? 条例案のどこにも、 その定義は書いてありません。 そういうときは、 既存の法令を参考にします。 法令ごとに言葉の意味が違ってはバベルの塔になっちゃいますから、 官僚が法律の文面を作るときは、 必ず他の法律で使われている言葉の意味と同じにするか、 改めて定義を書きます。 (定義しなおさずにうっかり違う意味で使ってしまったら、 それは作文した官僚のミスであって、 司法の場では通らないでしょう。)

e-Gov の法令データ提供システムで検索してみたところ、 「児童買春・児童ポルノ禁止法」 と 「出会い系サイト規制法」 の 2つの法律で使われていました。 どちらにも残念ながら定義は書いてありませんでしたが、 ほぼ同じ文章で使われていました。 児ポ法の文を引用してみます。

児童買春・児童ポルノ禁止法 (平成一六年六月一八日) より

(定義)
第二条  この法律において「児童」とは、 十八歳に満たない者をいう。
2  この法律において「児童買春」とは、 次の各号に掲げる者に対し、 対償を供与し、 又は その供与の約束をして、 当該児童に対し、
性交等 (性交 若しくは 性交類似行為をし、 又は 自己の性的好奇心を満たす目的で、 児童の性器等 (性器、 肛門 又は 乳首をいう。 以下同じ。) を触り、 若しくは 児童に自己の性器等を触らせることをいう。 以下同じ。) をすることをいう。
(以下略)

このように児ポ法では、 「性交類似行為」 は 「性交等」 という言葉の説明の中に出てきています。 自明である (説明するまでも無い)、 という使い方ですね。 ここの構造も見ておきましょう。

「性交等」 とは、
  (
    性交
     若しくは
    性交類似行為
  ) をし、
   又は
  (
    自己の性的好奇心を満たす目的で、
    (
      児童の性器等を触り、
       若しくは
      児童に自己の性器等を触らせる
    )
  ) こと

この文から分かることは、 「性交類似行為」 とは、 「性交」 そのものではありません。 「性器等を (手で) 触」 ること (手淫) も違います。 ということは、 アナルセックスやオーラルセックスが該当しそうです。 手で触ってやるのは規制対象に入りませんから、 エヴァでシンジくんが一人でナニやらやってたのは OK なわけです。 しかし、 「性交類似行為」 がきちんと定義されていない以上は、 それなら指や触手や医療器具を挿入するのはどうなんだとか、 曖昧なところが出てきます。
※ ちなみに。 性交類似行為に自慰が含まれないことから、 児童ポルノの定義 (児ポ法第二条3項) には自慰行為が含まれていないことになります。

さて。 けっきょく、 「性交 又は 性交類似行為」 というのは、 「普通のセックス・アナルセックス・オーラルセックスなど   (手や足などで触るのは除く)」 ということのようです。 これ以降は、 性交 又は 性交類似行為」 を 《性交等》 と簡略に表記することにします。 児ポ法などとは違う意味で使いますので、 気をつけてください。

「視覚により認識することができる方法」

それでは、 さきほど後回しにした部分を見ていきましょう。

まず、 「非実在青少年を相手方とする 又は 非実在青少年による」 というのは、 《性交等》 を行っている中に一人でも非実在青少年が入っていれば該当する、 ということを厳密に言うための表現でありましょうから、   ばっさり削ったままでも構わないでしょう。

次の、 「視覚により認識することができる方法」 というのはなんでしょう? これも児ポ法に出てきます (それ以外の法律には出てこないようです)。 児童ポルノの定義として、 写真などの物であって 「視覚により認識することができる方法」 により描写したものである、   と出てくるのです。 ということは、 「視覚により認識する」 とは、 写真を見るときのような認識のしかたである、 ということになります。 非実在青少年のほうには、 写真などのといった例示が付いていませんから、 写真と同じようにして視覚により認識できるものなら、 何でもアリです。 写真・絵画・CG・イラスト・コミック・アニメ・映画…。 では、 文字はどうでしょう? アスキーアートは含まれますね(笑)。 小説などは、 認識のしかたが異なるように思えるので、 たぶん含まれないのでしょう。

「みだりに」

辞書を引くと次のように載っています。 (「広辞苑 第四版 電子ブック版」 より)

みだり‐に【妄りに・濫りに・猥りに】
【副】秩序をみだして。 むやみに。 わけもなく。 思慮もなく。 無作法に。 しまりなく。

辞書の定義だと、 なんだか悪いことをするみたいです。 語感は 「みだらに」 と似てますし、 漢字も、 虚妄・濫用・猥褻といった単語を連想させますね。 しかし法律の言葉としてはどうなんでしょう? いくつか見ておきましょう。

美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律 (平成二十一年七月十五日法律第八十二号) より。

(ごみ等を捨てる行為の防止)
第二十三条
 国及び地方公共団体は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)その他の法令の規定に基づく規制と相まって、森林、農地、市街地、河川、海岸等において
みだりに ごみその他の汚物 又は 不要物を捨てる行為を防止するため、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

決められた場所以外にごみを捨てるのはよくないことですから、 ここの 「みだりに」 は辞書的な意味で使われているようですね。

行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律 (平成十五年五月三十日法律第五十八号) より。

(従事者の義務)
第七条
 個人情報の取扱いに従事する行政機関の職員若しくは職員であった者又は前条第二項の受託業務に従事している者若しくは従事していた者は、その業務に関して知り得た
個人情報の内容を みだりに 他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。

ここでは、 「個人情報の内容を他人に知らせ」 る行為自体については、 悪いとは言っていないし、 社会通念としてもケースバイケースでしょう。 この 「みだりに」 は、 必要性が無いのに、 とか、 許可を得ずに、 といった意味合いのようです。

特定非営利活動促進法 (平成十年三月二十五日法律第七号) より。

(会計の原則)
第二十七条
 特定非営利活動法人の会計は、この法律に定めるもののほか、次に掲げる原則に従って、行わなければならない。
(中略)
四 
採用する会計処理の基準 及び 手続については、 毎事業年度継続して適用し、 みだりに これを変更しないこと。

会計処理の基準などをどうするかは、 法人が自由に決められます。 しかし、 あまり頻繁に変えられては困るので、 「みだりに」 やってくれるなと言っています。 ここでの意味合いは、 必要性が無いのに、 という程度でしょう。

以上のように、 法律で 「みだりに」 と言うときは、 「そんなの悪いことに決まってるから、 やるほうがおかしいだろ」 という行いから、 「するのは構わない、 あんたの権利だ。 だけど、 ほどほどにしてよ」 という行為まで幅広く使われています。

では、 第七条の 「みだりに」 は、 どうでしょう? 「《性交等》をする非実在青少年の姿態を、 《マンガ・アニメ等》で、 … 描写すること」 は、 憲法の保障する表現の自由です。 自由にやっていい行為の前に 「みだりに」 と付くのは、 引用した例で言うと最後の 「特定非営利活動促進法」 ですね。 「するのは構わない、 あんたの権利だ。 だけど、 ほどほどにしてよ」 という意味合いの 「みだりに」 でありましょう。 つまり、 「必要性が無いのに」 といった程度の意味なわけです。

※ ここでは議論しませんが、 フィクションであるマンガ・アニメのストーリー展開に必要性があるのか、 いやそもそも、 フィクションを創るという行為自体に必要性があるのか、 という話にもなります。

「性的対象として」

この一句は、 意味不明です。

まず、 辞書を引いてみます。  (電子ブック用 「学研国語大辞典 1998年版」 より)

せいてき 【性的】
《形容動詞》 男女の性に関するようす。 また、 性欲に関するようす。

たいしょう 【対象】
(1) 〔哲学・倫理学・美学〕 主観に対立するもの。 人間の、 認識・感情・意志などの心的活動がむけられる目標物。 客観。
(2) 目標とするもの。 めあて。

「男女の性に関する対象」 よりも 「性欲に関する対象」 のほうが、 意味が通りよさそうです。 「性欲という感情が向けられる目標物」 といったところでしょうか。

では何が 「性欲が向けられる目標物」 なのでしょう? 条文をたどると、 「(前略) 姿態を」 「性的対象として」 「描写する」 となっています。 「A を B として、 ~する」 という文は、 A と B が同等である、 同じであるとみなした上で 「~する」、 ということです。 「A を B と同じものだと思って、 ~する」 という意味です。 すなわち条文は、 「(前略) 姿態」 = 「性欲が向けられる目標物」 であると言っていることになります。 姿態とは、 なにか動作をしているときの姿、 ポーズですね。 「《性交等》に関係する非実在青少年のポーズ」 を 「性欲が向けられる目標物」 と同じものであると思って 「描写」 することが規制対象なんだそうです。 「非実在青少年」 そのものを 「性欲が向けられる目標物」 だと思って描写するのはかまわない、 ということになってしまいます。 なにかへんです。 条例 「改正」 の意図とはそぐわない感じですよね。

この 「性的対象」 という言葉は、 前述の法令検索サイトでは見つかりませんでした。 そこで Google に頼って探してみたところ、 法令では出てこなかったものの、 判例でいくつか見つけられました。

東京地方裁判所 平成14年(ワ)第26959号 (PDF) より。

女性従業員(同店における通称B)を性的対象としてみたことはなく, その欲求を満たすため女性従業員に「乳首触らせて」と発言することはあり得ない。

東京地方裁判所 平成14年(ワ)第10105号 (PDF) より。

原告を性的対象として, 原告の主張するようなセクハラ行為をしようとする意図があったことがうかがわれる。

判例にもあまり出てこない言葉なのですが、 以上の例のように、 「性的対象 (性欲が向けられる目標物)」 になるのは、 「女性従業員」 だったり 「原告」 だったりします。 ようするに 「人」 です。 判例では、 「ある人」 を 「(自分の) 性欲が向けられる目標物」 として扱う、 という意味で使っているようです。

ということで、 第七条(案)に出てくる 「性的対象」 という言葉は、 既存の法令・判例とは異なる、 東京都条例に独自の意味で使われているようですが、 私にはその意味はよくわかりません。

「肯定的に」

これも、 きちんと理解しようとするとよくわからない言葉です。

まず、 法令データ提供システム で検索してみたところ、 「肯定的」 という単語を含んだ法令は見つかりませんでした。 判例にはけっこう出てきます。 一例を挙げてみます。

大阪高等裁判所 平成20年(ネ)第420号 (PDF) より。

「Love」は, 我が国においても極めて周知度の高い英語であり, 「愛」 「恋愛」という観念から, 肯定的に受容され, 普遍的に好感を持たれる語ということができ,

辞書的な 「そのとおりである」 という以上に、 「良いものとして」 といったニュアンスが付加されて使われているようです。 次に、 反対の 「否定的」 も合わせて辞書から引用しておきます。 (電子ブック用 「学研国語大辞典 1998年版」 より)

こうていてき 【肯定的】
《形容動詞》 そのとおりだと認めるようす。 また、 ある物事の可能性をみとめるようす。

ひていてき【否定的】
《形容動詞》 そうでないと打ち消す内容を持つようす。

新七条では何を 「肯定的に」 してはいけないと言うのでしょう? 条文は、 「姿態を」 「肯定的に」 「描写する」 ことを自主規制せよとなっています。 「性的対象として」 を考慮すると、 「性欲が向けられる目標物としての姿態 (ポーズ) を、 そのとおりである、 良いものであるとして、 描写すること」 となりましょうか。

なんとなく分かったような気になりますが、 ちょっと立ち止まって、 反対を考えてみてください。
「《性交等》に係る非実在青少年の姿態を (中略) 性的対象として否定的に描写すること」 は、 どうやったら出来るでしょうか? ここで思い出していただきたいのですが、 その描写は 「視覚により認識することができる方法」 ( 写真を見るときのような認識の方法 ) で為されねばなりません。 そして、 描写の対象は、 《性交等》に関係している姿態 (ポーズ) です。 非実在青少年の生き様や、 考え方などをストーリーを追って描写する中で、 《性交等》を否定的に表現してもダメなのです。 姿態 (ポーズ) を描写するときに、 そのポーズは良いものではないと、 視覚的に表現しなければなりません。 さて、 どのようにして 「否定的に描写」 すればいいのでしょう?

「肯定的に」 という語は、 なんらかの制限を加えているように見えますが、 「否定的に描写する」 方法が無い、 あるいは不明である以上は、 「肯定的に」 には何の意味も無いことになります。 ( 裏返せば、 「《性交等》に係る非実在青少年の姿態を、 性的対象として否定的に描写する」 ことが出来る作者は、 新条例を気にすることなく、 《性交等》に係る非実在青少年の姿態を描けることになりますね。 )

「性的感情を刺激し」

最後に、 七条二号に書かれていないことを。

七条一号にあった 「性的感情を刺激し」 という言葉が、 二号にはありません。 ということは、 「性的感情を刺激」 しなくても対象になります。 「《性交等》に関係する非実在青少年の姿態を (中略) 描写」 することは、 「性的感情を刺激」 しないように描いてもダメだということです。

まとめ: 新しく自主規制の対象となる非実在青少年とは

それは条例案の第七条の二号に書かれています。 第七条は、 図書類 (本、 雑誌、 コミック、 写真集など)、 映画等 (映画、 アニメ、 テレビゲームなど) についての自主規制を定めたもので、 それらを販売・提供する者と出版社がその義務を負っています。

次に第七条の二号の条文とその解釈を示します。 これを自主規制の対象として、 都内で青少年の手に渡らないよう、 見せることの無いようにしなければならないというのです。

条例案 解釈
年齢 又は 服装、 所持品、 学年、 背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示 又は 音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの (以下 「非実在青少年」 という。) (非実在青少年の定義)
年齢の表示 から 十八歳未満として表現されていると認識されるもの
  or
年齢を想起させる事項の表示 から 十八歳未満として表現されていると認識されるもの
  or
音声による描写 から 十八歳未満として表現されていると認識されるもの
を相手方とする 又は 非実在青少年による 関係する登場人物に非実在青少年が一人でも入っているなら、 という意味。
性交 又は 性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を 《性交等》に関係している非実在青少年のポーズを

※ 《性交等》: 普通のセックス・アナルセックス・オーラルセックスなど (手や足などで触るのは除く)
視覚により認識することができる方法で 《マンガ・アニメ等》において、

※ 《マンガ・アニメ等》: 写真・絵画・CG・イラスト・コミック・アニメ・映画… (ただし、 文章表現は除く)
みだりに性的対象として肯定的に描写すること 必要性が無いのに、 性欲に関する対象として、 そのとおりである (良いものである) として、 描写すること

※ 「描写すること」 に付けられた修飾語は、 ほとんど無意味、 あるいは意味不明。
※ 「性的感情を刺激し」 といった語が付けられていないので、 エロくなくてもダメ。
により、 青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、 青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの ※ ここは、 自主規制をする側が 「おそれは無い」 と判断しても、 都に 「いや、 おそれが有る」 と判断されてしまえばひっくり返されるわけですから、   解釈してみる意味が無いと思います。   また、 解釈してみようにも、   いきなり 「性に関する健全な判断能力」 からして理解できないです。

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